現代貨幣理論(MMT)ってなに?分かりやすく解説

「現代貨幣理論」は経済学の理論の一つ

「現代貨幣理論」は経済学の理論の一つ

「私たちは普段何を基準に品物やサービスを選んでいるのか」「景気を良くするためにはどのような政策が必要なのか」など、一個人の消費活動から国家の財政まで幅広く研究する学問が「経済学」です。

経済学は内容によって様々な学問領域に分類され、例えば個人消費や企業活動の分析は「ミクロ経済学」、国の景気動向や経済成長などについての研究は「マクロ経済学」の対象とされるのが一般的です。なかにはスポーツと経済を結びつけて考える「スポーツ経済学」という分野もあるほど、研究対象の広い学問です。

今回紹介する「現代貨幣理論」はマクロ経済学の一つといえます。

現代貨幣理論(MMT)ってなに?

現代貨幣理論(MMT)ってなに?

現代貨幣理論とは名前の通り貨幣や金融の仕組みを理解し、それを基に経済政策の分析などを行う理論です。英語表記の「Modern Monetary Theory」の略称で「MMT」ともいい、「現代金融理論」と呼ぶ場合もあります。

現代貨幣理論の代表的な主張をまとめると、以下の3つのことがあげられます。
・自国通貨を発行できる政府は財政赤字を拡大しても債務不履行になることはない
・財政赤字でも国はインフレが起きない範囲で支出を行うべき
・税は財源ではなく通貨を流通させる仕組みである

このように「税は国の収入である」といった従来の定説とは異なる考え方で、近年大きな話題を呼びました。

ではどうして、上記のような考え方ができるのでしょうか?ここからは現代貨幣理論の基礎の中でも、最もポピュラーな理論を3つ紹介していきます。

なお、これから説明する「貨幣」とは紙幣や硬貨など実際に流通する物体を指します。一方で「通貨」とは流通する貨幣全体を表す概念を指すことが多いですが、ここでは便宜上「貨幣」を基本的に用い、貨幣の交換や流通の手段としての機能を強調する際に一部「通貨」を用いています。

【現代貨幣理論の基礎1】貨幣は「負債証明書」

【現代貨幣理論の基礎1】貨幣は「負債証明書」

歴史を振り返ると、貨幣は貴金属などのようにそれ自体に希少性があり、交換価値があるものとして考えられていました。しかし一方で、現代貨幣理論をはじめとする近年の学説では、貨幣とは単に負債の記録である「負債証明書」と定義されています。

とはいえ、いきなり「負債証明書」と説明されてもピンと来ない方も多いでしょう。

例えば、AさんがBさんの家でお手伝いしました。Bさんは対価としてAさんに「1年後にお米と交換する」という約束を記録した貝殻を渡します。この貝殻が貨幣です。

もちろん、ただの貝殻にお米と交換できるほどの価値は普通ありません。しかし、経済に参加する全員が貝殻を「1年後にお米と交換」しなければならない負債証明書として考え、信用すると、通貨として成立するようになります。

負債証明書を発行した人にとっては、ゆくゆくは資産を譲渡することになるため負債となり、獲得した人にとっては財と交換できる資産といえます。決められた期日に支払いが行われるという点では、現代の手形や債券と共通しています。

このように発行する側から見て貨幣を負債の一種とする考え方は、現代貨幣理論の基礎の一つ、「信用貨幣論」といわれています。

なお、イギリスの中央銀行であるイングランド銀行では、信用貨幣論に基づいて通貨を以下のように定義しています。

「Money today is a type of IOU, but one that is special because everyone in the economy trusts that it will be accepted by other people in exchange for goods and services.(今日の通貨は負債証明書の形式の特殊な一つで、経済社会に参加するだれもが財やサービスと引き換えに受け取ってくれると信じているもの)」
出典:イングランド銀行 Money is the modern economy:an intoroduction(外部サイト)

また、補足として現代貨幣理論では政府と中央銀行を統合的に扱い、通貨を発行するのはあくまでも「政府」であるという立場を取ります。そのため、中央銀行から発行される貨幣は国(政府)の負債と考えられます。

【現代貨幣理論の基礎2】経済活動が先で、貨幣の増減は後

中央銀行の経済政策などでは市場に流通する貨幣(資金)の供給量を増やせば消費活動が増えて市場が活性化し、減らすと過熱し過ぎた市場を正常化する効果がある、という前提があります。

一方、現代貨幣理論では因果関係が逆となっています。社会が好景気となり、お金を借りて事業を発展させたい人が増えた結果として貨幣の量が増加する、という捉え方です。判断は人それぞれですが、中央銀行や政府の先導のもと世の中の経済がコントロールされる、という考え方よりもこの「使う予定があるからお金を借りる人が増える」という現代貨幣理論のロジックの方が合理的に感じる人も多いでしょう。

このように社会の需要に応じて貨幣が供給されるという理論を「内生的貨幣供給論」といい、現代貨幣理論の中でも基礎的な学説となっています。

【現代貨幣理論の基礎3】税があるから貨幣が流通する

【現代貨幣理論の基礎3】税があるから貨幣が流通する

円やドルといったそれぞれの国の流通貨幣は、価値があるものとして信用されています。

では、そもそもなぜ価値があるものと社会で考えられているのでしょうか? その理由を「国家への納税手段に使えるから」とするのが現代貨幣理論の「租税貨幣論」です。

租税貨幣論の考え方については、現代貨幣理論の提唱者ウォーレン・モズラー氏が分かりやすく説明した「モズラーの名刺」という次のエピソードを紹介したいと思います。

“モズラーは子供たちが家の手伝いをしないことに困っていました。ある日、モズラーは子供たちが家事を一つするごとに、報酬として自分の名刺をあげることを思いつきます。しかし、子供たちは名刺なんかいらないとその提案を拒否。

そこでモズラーはさらに「月に一定枚数の名刺を集めて私に納めないと、罰を与える」と言いました。こうして、子供たちは名刺を獲得するために家事を行うようになりました。”

この話に出てくる名刺が貨幣で、名刺をモズラー氏に納める行為が納税にあたります。先述したように税の支払いに使えるから、その通貨が広く受け入れられるというのが租税貨幣論の概要です。この理論では、報酬だけでなく課税という罰則のルールも機能させることで、人々と貨幣の結びつきをより強固にする役割が指摘されています。

「税は財源ではない」の理由は?

「税は財源ではない」の理由は?

現代貨幣理論の基礎を紹介したところで、改めて冒頭の「財政赤字でも国は支出を行うべき」「税は財源ではなく通貨を流通させる仕組み」と提唱される理由の一部について、簡単に解説します。

まず、現代貨幣理論では、通貨発行者である政府は負債が増えても通貨を発行することで返済ができるので、財政赤字が膨らんで債務不履行になるというような問題は生じないと考えます。簡単に言うと国は赤字の補填を基準に政策を考えるのではなく、インフレが起きない範囲で、市場の需要に応えて「財政赤字でも国は支出を行うべき」と現代貨幣理論では主張しているということ。

次に「税は財源ではなく通貨を流通させる仕組み」について。先ほどのモズラー氏のエピソードでは、子供たちは納税のために名刺を集める必要がありました。しかし、子供たちは最初その名刺を持っていないため、モズラー氏が用意して渡さなくてはなりません。

国家の場合も同じです。国民が貨幣で納税するためには、先に国家が支払いを行わなければなりません。

上記の順番で行うならば、税収は国にとって「支払ったお金が戻ってきただけ」だともいえます。

まとめ

経済学者は現代貨幣理論を「レンズ」と呼ぶことがあります。現代貨幣理論は社会の仕組みがより正しく見えるようになる眼鏡のレンズに過ぎないと考えているからです。

経済学以外にも言えることですが、どこから見るかで社会の見え方はがらりと変わるといえます。現代貨幣理論もそのような見方の一つ。もちろん正反対の立場を取る理論もあります。それぞれがどのような考え方をしているかを理解すれば、より多角的に世の中を見ることができるかもしれません。


参考:
『図解入門ビジネス 最新 MMT[現代貨幣理論]がよくわかる本』(秀和システム)望月 慎著
『図解ポケット MMTのポイントがよくわかる本』(秀和システム)中野 明著

ライタープロフィール

笠木 渉太

笠木 渉太
主にマネー系コンテンツ、広告ツールを制作する株式会社ペロンパワークス・プロダクション所属。立教大学卒業後、SE系会社を経て2019年に入社。主にクレジットカードやテック関連のWEBコンテンツ制作や企画立案、紙媒体の編集業務に携わる。

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