王位戦第4局は平成将棋対令和将棋の展開 令和の藤井2冠が新感覚で勝利という結末に! 真田圭一八段解説

手堅く玉を囲った豊島2冠だったが…

藤井聡太2冠【写真:ENCOUNT編集部】

 藤井聡太2冠(19)に豊島将之2冠(31)が挑む、将棋のお~いお茶杯第62期王位戦七番勝負第4局が8月18、19日に「関西将棋会館」(大阪市福島区)で行われ、後手の藤井2冠が豊島2冠に140手で勝利。対戦成績を3勝1敗とし、王位防衛に王手をかけた。第4局を振り返る。

【写真】つるの剛士、屋根裏の将棋部屋を模様替え 「オシャレな秘密基地」「旅館かと思った」と話題 藤井2冠の2勝1敗で迎えた王位戦第4局。この一戦に勝てば防衛に王手をかけることができる。一方の豊島2冠としても、勝てば2勝2敗の五分に持ち込むことができるが、負けると3連勝以外タイトル獲得の道筋がなくなってしまう。

七番勝負の行方を占う上で非常に大きい一戦だ。  豊島2冠の先手で始まった本局は、相掛かりのスタート。序盤早々に定跡を離れ力将棋に。お互いに自陣角を打ち、小競り合いはあったものの本格的な戦いとはならず1日目が終了。

ポイントは向かい合う▲3六銀と△3四銀が共に「歩越し銀」と呼ばれる形で使いづらい。この銀をどううまく使うかが中盤戦のポイントとなる。  2日目に入っても戦いはすぐには始まらない。その中で豊島2冠が動きを見せる。玉を左辺に三手かけて71手目▲8九玉まで進めて、菊水矢倉と呼ばれる囲いに収めた。囲いにかけた手数を含めると五手かかっている。

忙しい中盤戦で五手をかけて玉の安全度を重要視したのは、それだけ玉の堅さが勝ちやすさにつながるという価値観があってこそのもの。平成の時代は間違いなく大きな勝利の条件の一つだった。  

一方、藤井玉は盤の中央の5筋にいる、「中住まい玉」と呼ばれる形。長所は左右に逃げ道があることと、囲いに手数をかけずに済むこと。だが、四方八方から攻められるスキがある、いわゆる流れ弾に当たりやすいという難点もある。だが、本局に限らず藤井2冠は中住まい玉で形勢のバランスを保つのがうまい。「令和の価値観」とも言える新感覚と呼んでもいいだろう。

奇抜な手はなかったが、攻め倒した藤井2冠

真田圭一八段

 実戦に戻って、ようやく戦いが始まった73手目▲4七銀と銀をぶつけた局面は、玉が堅い上、戦場からも遠いので先手の方が方針が分かりやすく思える。だが、78手目△5四銀打を境に様相が一変する。

この手自体は玉を厚くしつつ要所を抑える銀打ちで味がいい。だが、この銀はこの将棋自体の流れそのものを大きく変えてしまう手となる。この手以降、藤井2冠は勝勢になるまで攻めの手しか指さなかった。  

一方、玉を堅陣に収めて攻めに専念できるはずだった豊島2冠は逆に防戦一方となってしまった。もちろん、藤井2冠が非常にうまく豊島陣を攻略したというのはあるだろう。だが、一手一手を見れば奇抜な手はなく、順当に攻め倒したような印象を受ける。必死に堅陣を築いた豊島2冠としては、このような展開での敗戦は不本意だっただろう。

 大局観、価値観の差異がもたらしたとも言うべき藤井2冠の快勝劇。これで王位防衛まであと1勝。同時進行の叡王戦も、奪取に王手を掛けている。このまま藤井2冠が突っ走るのか、豊島2冠が踏みとどまるのか。いよいよこの2人の対決も佳境を迎えた。

真田圭一