3人で100億円を詐取…「楽天モバイル」幹部社員たちが、ここまでの不正に手を染められた理由《渡辺美奈代・K-1武尊との交友も》

警視庁よりも先に国税が調査

「楽天モバイル」(東京都世田谷区)から携帯電話基地局をめぐる事業で約300億円を不正に支払わせていた3人の男が、詐取した金額は約100億円だった──。

不正請求といえば、通常の経費に詐取分を3%、5%と水増ししてごまかすというイメージだが、3分に1以上をゴッソリ抜くというのは、バレても仕方がないと思った刹那的な確信犯か、楽天モバイルのガバナンス不全を読み切り、絶対にバレないと思った自信過剰の確信犯かのどちらかだろう。

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警視庁捜査2課が3月3日に詐欺容疑で逮捕した3人は、楽天モバイル物流管理部長の佐藤友起容疑者(46歳)、中堅物流会社「日本ロジステック」(東京都千代田区)元常務の三橋一成容疑者(53歳)、運輸会社「TRAIL(トレイル)」(港区)の浜中治容疑者(49歳)である。

約100億円の使いっぷりはハンパではない。不正請求に気付いた楽天モバイルが、佐藤容疑者を解雇のうえで資産を際し押さえるなどして事件が発覚した時点で、筆者は本サイトに《楽天・三木谷を苦しめる「不良幹部社員」は4億円タワマンに住んでいた》(22年9月15日)と題して配信した。

港区に新築された地上26階建て最上階136平方メートルをキャッシュで購入したのだから国税から目を付けられるのも当然で、警視庁より先に東京国税局資料査察課が3人の行状に気付き調査していた。

佐藤容疑者はこのタワマン以外に、神奈川県鎌倉市や沖縄県名護市に高級マンションを持ち、高級車6台を所有。また妻が代表を務める「TKロジ」(京都府城陽市)が詐取資金の“受け皿”となっており、この会社名義でも会社所在地などの不動産のほか高級車8台を所有していた。夫妻の口座に残された現預金は約3億6000万円だったという。

佐藤容疑者と浜中容疑者をつなぐのは「車」である。浜中容疑者の場合は、趣味に投資を兼ねていて、150台もの車を神奈川県相模原市内にある「横領倉庫」に保管していた。古いスカイラインなど希少な旧車や1台数千万円の高級車を並べており、その内部写真は『FDIDAYデジタル』(23年1月25日配信)が報じた。

50億円を詐取した「物流のプロ」

浜中容疑者は派手な交遊も隠さず、ネット上には今も著名人との交遊履歴が残る。元おニャン子クラブの渡辺美奈代は、インスタグラムで浜中容疑者やK-1選手で元世界チャンピオンの武尊らと一緒に写真に収まり、「濱中社長」と紹介。トレイルは武尊のスポンサー企業であり、武尊のガウンやパンツには「TRAIL」の文字が刻まれていた。

武尊のインスタグラムより

「車」とともに「卓球」が趣味。その縁で著名卓球選手とは親交があり、トレイルは五輪メダリストの吉村真晴、弟の和弘選手のスポンサーを務めていた(現在は離れる)。

真晴選手は、再起を図って21年10月、トレーナーなどを含む「チーム真晴(マハル)」を結成するが、それは真晴選手の決意を聞いた浜中容疑者が、「よし、それだったら一緒にやってやろう」と請け合ってスタートした。

約100億円のうち半分の約50億円が流れたという佐藤容疑者は、金融機関や外資系物流会社を経て、「物流のプロ」としての腕を見込まれて18年7月、楽天に入社。19年4月から楽天モバイルの基地局整備事業に携わるようになった。

楽天の三木谷浩史社長は2017年4月、「第四の携帯キャリア」の参入を表明した。当時は安倍晋三政権下で菅義偉元官房長官が力を持ち、元総務相としてNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社寡占がもたらす携帯料金の高止まりに業を煮やしていた。そこでネットで完結する「楽天経済圏」を目指す三木谷氏の野心を読み取り、携帯事業への参入をバックアップした。

だが、携帯事業を一から立ち上げるのは想像以上にたいへんで、なにより「つながり難さ」を解消するための基地局整備が急務で、そこへの大量投資を惜しまなかった。それが楽天を直撃する。21年12月期決算は最終損益が1338億円の赤字、22年12月期決算はさらに膨らんで過去最高の3728億円の赤字だった。

この急拡大路線を担った「外人部隊」の佐藤容疑者は、19年4月に担当となり、その3か月後の7月には日本ロジと「物流業務の委託契約」を締結し、約2100万円の裏金を受け取っている。

楽天のチェック体制の甘さ

楽天モバイル→日本ロジ→トレイル→TKロジという物流の流れはこの時に決まり、請求書はコンサル料や輸送費、部材保管料などの名目で水増しされ、TKロジ→トレイル→日本ロジ→楽天モバイルと渡っていった。この詐欺スキームによって、日本ロジの133億円だった売上高(20年3月期)は、約406億円(22年3月期)と倍増した。トレイルはそれ以上で、約26億円だった売上高(20年3月期)は約193億円(22年3月期)と7・4倍増になった。

内部と外部が確信犯として組んで詐欺を仕掛けたら防御は容易ではないが、それでも楽天のチェック管理体制の甘さは指摘しなければなるまい。

渡辺美奈代氏のブログに写る武尊(上段左)と浜中容疑者(同・中)

「外人部隊」による詐欺的スキームには先例がある。

楽天は、16年11月に始めた自前の配送サービス「楽天エキスプレス」を21年5月に打ち切った。それが突然の解除であったとして埼玉県の運送会社「トランプ」が、楽天などを相手取り約5億6000万円の損害賠償請求訴訟を起こしている。

その際、明るみに出たのが物流部門のトップに就いていた執行役員が、キックバックを受け取るための会社を作り、事業譲渡をトランプに強要したことだった。この執行役員と直属の部下は、内部告発を受けた社内調査の結果、21年3月までに退職している。執行役員は大手物流会社からの転職組で、18年7月、エキスプレスを本格化させるのに伴い担当責任者となった。

偶然とはいえ転職組の不正が続いたのは、「外部の目」から見て楽天管理体制にスキがあるからだろう。そこを突いて不正に走るのは論外だが、犯罪を誘引する芽は摘むべきだ。

楽天の「顔」である三木谷氏は、パーティー好きをガーシー参院議員に揶揄されてトラブルとなった。所属するNHK党の立花党首は「三木谷氏がガーシーを訴えて捜査が始まった。それは虚偽告訴にあたる」として三木谷氏を民事提訴した。

「告訴はしていない」と楽天が筆者の質問に答えたのは前回(3月2日)の本サイト配信で伝えた通りだが、三木谷氏がガーシー氏の挑発に乗ってしまい、「ハイエナか、お前は!」とツイートしたのは三木谷氏の失態である。

楽天は3月30日開催予定の株主総会で元警察庁長官の安藤隆春氏を社外取締役に迎える。警察OBを雇って何とかなるものではないが、わずか2年で100億円もの貴重な会社資産を抜かれてしまう「管理の甘さ」は、抜本的に変えなければならない。

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