米、初のデフォルト現実味 債務上限の協議難航 ドル信認低下も

【ワシントン=大内清】米政府の債務上限引き上げを巡ってバイデン大統領と野党・共和党の協議が難航し、米ドルの信認が揺らぐことへの懸念が強まっている。

政府の運営資金が来月1日にも払底するのを前に協議がまとまらなければ、米国史上初のデフォルト(債務不履行)が現実味を増す。米主導の世界秩序を支えてきた「ドル一極体制」はさらに揺らぐことになる。

【グラフ】変動相場制に移行して50年、ドル円相場の推移と主な出来事 7日、イエレン財務長官は米テレビで、債務上限を引き上げられなければ、経済と金融の両面で「破滅的な結果」になると強い警告を発した。 どのような影響が予想されるのか。米メディアによると、政府職員の給与や高齢者向け健康保険、年金、退役軍人の恩給、州への補助金といった各種支払いが停滞するほか、国債の利回り上昇に連動してローン金利が高くなることが予想される。

金融市場への打撃は避けられず、急速な景気後退や社会不安の引き金となる可能性もある。 政府が額面1兆ドル(約134兆円)のプラチナ硬貨を発行して当面の資金を調達するといったデフォルト回避案も浮上しているが、実現性は不透明だ。 さらに懸念されるのは、米国の威信に対する長期的な打撃だ。

トランプ前政権で大統領副補佐官を務めたマット・ポッティンジャー氏らは米外交専門誌フォーリン・アフェアーズへの寄稿で、デフォルトの可能性が取り沙汰されること自体が米国の信用低下や各国のドル離れを招き、ドルを基軸通貨とする金融システムの弱体化につながると指摘。「中国やロシアが米国の弱みを突こうと狙っているときに米国の力を損なうことになる」と警鐘を鳴らした。

米国がデフォルトの危機に直面するのはこれが初めてではない。 バイデン氏が副大統領だったオバマ政権期の2011年にも、与野党対立の激化で債務上限を引き上げる立法措置が難航し、デフォルトまで数日の崖っぷちに追い込まれた。米格付け大手S&Pは米国債の長期信用格付けを最高水準の「トリプルA」から「ダブルAプラス」に1段階引き下げ。世界の外貨準備に占める米ドルのシェア低下に拍車がかかったと指摘される。 当時、下院の過半数を握る共和党で債務上限の引き上げに抵抗したのは、草の根保守運動「ティー・パーティー(茶会)」系の議員グループだった。

現在の共和党で、デフォルトのリスクを盾にして影響力を振るう保守強硬派は、その流れをくむ。 バイデン氏とマッカーシー下院議長ら与野党幹部は12日に再協議に臨む予定だが、互いに歩み寄る姿勢はみえていない。 米国では、連邦政府が国債の発行などで借り入れられる金額の上限が法律で定められている。債務が上限に達した場合、新たに国債を発行するには議会での立法措置による上限の引き上げが必要となる。

直近では2021年末、債務上限が2兆5千億ドル引き上げられて約31兆4千億ドルとなった。 今年1月にこの上限に達したことから、現在は財務省の特別措置などによる資金繰りが続いているが、同省は6月1日には資金が枯渇すると予測。新たに債務上限を設定して国債を発行できなければ、発行済み国債の利払いが不可能となり、デフォルト(債務不履行)に陥る可能性が高いとみられている。