不透明融資が明るみに出て経営破綻したFTXトレーディングの創業者サム・バンクマン・フリード

<破綻したFTXの創業者が予定していた公聴会での証言が、緊急逮捕でふいになった。変わり者できっと議会で自白すると思われていたバンクマン・フリードの口を封じたのは誰なのか>

不透明融資が明るみに出て経営破綻したFTXトレーディングの創業者サム・バンクマン・フリード(30)が12月12日に突然逮捕されたことで、その翌日に予定されていた米議会公聴会での彼の証言は中止された。法律の専門家によれば、バンクマン・フリードが証言していれば、暗号資産業界にとっても、かつて暗号資産のカリスマといわれたこの男にとっても、非常に都合の悪いことになっていたかもしれない。

FTXは暗号資産取引所として業界最大手の1つだったが、ほぼ一夜にして崩壊した。暗号資産版「リーマンショック」と呼ぶ人もいる。

バンクマン・フリードは13日に米下院金融サービス委員会にオンラインで参加し、FTXの経営破綻に関して証言を行うことになっていた。ところがその前日に、米検察当局に詐欺とマネーロンダリングの容疑で刑事告発され、本拠地にしているバハマで逮捕されたのだ。

13日の公聴会は予定通り行われたが、共和党議員からはバンクマン・フリードの不在について、連邦当局が意図的に彼の証言を封じたのではないかと非難めいた声が聞かれた。バンクマン・フリードは民主党の大口献金者でもあったからだ。

金融サービス委員会の委員長を務める進歩的なマキシン・ウォーターズ下院議員も、「この逮捕のタイミングは、国民が宣誓中のバンクマン・フリードから直接話を聞く機会を奪っている」と、13日の展開に憤慨した。

検察の早まった決断か

今回の逮捕は、アメリカの法執行機関ではなくバハマの当局によって行われたが、法律の専門家は、予定されていたバンクマン・フリードの証言が終わるまで待つべきだったという。

元連邦検事のマイケル・マコーリフ州検事は本誌に対し、バンクマン・フリードが宣誓のもとで証言していれば、連邦政府当局は、司法省が調査している問題について貴重な情報を得ることができたかもしれないと語った。

また、ネアマ・ラーマニ元連邦検事は、バンクマン・フリードは法的助言を無視することで知られているため、下院委員会で犯罪的行為を自白していた可能性が高く、その後に逮捕したほうが罪を認める可能性が高かっただろうと本誌に語った。

「犯罪の容疑で捜査されそうになっているとき、普通の人なら議会での証言など拒否するだろう。だが、バンクマン・フリードは普通の人間ではない。彼は自分の考えに従うだけでなく、法的な助言には逆らう」と、ラーマニは言う。「証言は多くの理由で役に立っただろう。検察はバンクマン・フリードの逮捕を待つべきだった」

逮捕のタイミングは米連邦検事局が指揮していたのだから、バンクマン・フリードの議会証言の前に逮捕を決断する「唯一の正当な理由」は、国外逃亡の懸念だけだ、とラーマニは言う。「そうでなければ、検察は早まった」。