ペスト菌がヒトの免疫遺伝子を進化させていたことが集団墓地のDNA分析で明らかに(ドイツ研究)

人類はいくつもの伝染病に見舞われてきたが、ペスト菌によって発病するペストは、古来より繰り返し世界的に大流行しておりその代表的なものだろう。

 病原菌やそれによる感染症は、人類に選択圧をくわえて特に免疫に関連した進化をうながす。新たな研究によると、ペスト菌が免疫関連遺伝子に影響をもたらしていたことが、ドイツの古い共同墓地のDNA分析により明らかになったそうだ。 

共同墓地のペスト患者遺体からDNAを採取して現代人と比較

 感染者の皮膚が内出血して紫黒色になるので黒死病とも呼ばれるペストは、人獣共通感染症かつ動物由来感染症であり、世界の歴史において古来、複数回の世界的大流行が記録されており、14世紀に起きた大流行では、当時の世界人口4億5000万人の22%にあたる1億人が死亡したと推計されている。

 ヨーロッパもまた5000年にもわたりペストに苦しめられてきた地域だ。もし感染症が人の進化的適応に関係しているのなら、過去の犠牲者からその痕跡を発見することはできないだろうか?

 そこでドイツ、マックス・プランク研究所の研究グループは、16世紀から17世紀にかけてペストが大流行したエルヴァンゲン市の共同墓地に埋葬されていた遺体の内耳骨からDNAを採取。それを現在の住人のDNAと比較してみた。

免疫関連遺伝子が変化していたことを確認

 488の免疫関連遺伝子を調査したところ、ペスト菌によっていくつかの変異が生じたことを示す証拠が発見されたという。

 「フィコリン」ならびに「NLRP14」という免疫タンパク質の変異に関係する「アレル頻度」(ある集団の中で各々の対立遺伝子が発現する割合)が変化していたのだ。

 これはペスト菌にうながされた進化プロセスが、エルヴァンゲンの住人たちの免疫関連遺伝子を形成した可能性を示すはじめての証拠であるという。それはこの街にとどまらず、ヨーロッパ中でいく世代にもわたって起きたことである可能性もあるとのことだ。

パンデミックを乗り越える生存者は必ず存在する

 この研究でもう1つ示されているのは、どれほど危険なパンデミックであっても、必ず生存者がいるということだ。

 大勢の人が犠牲になったとしても、中には抵抗力を持つ人間がいる。そのために全員が病気で命を落とすようなことはなく、一時期的に人口が減少したとしてもいずれもとに戻るだろうと、研究グループのパウル・ノーマン博士は説明する。

 いわゆる生物における選択と淘汰ってやつなのかもしれない。

 とはいえ何の手も打たなくてよいわけではない。その時代に応じた対策を行うことも「選択と淘汰」に含まれている。現代医学は淘汰が過剰に進むのを防ぐために必要不可欠なものだ。それも適応進化の一形態なのだろう。

 この研究は『Molecular Biology and Evolution』(5月18日付)に掲載された。

References:DNA Evidence From Mass Grave Suggests Bubonic Plague Had Long-Term Effect on Human Immunity Genes/ written by hiroching / edited by parumo