“ブレークスルー感染” に注意

“ブレークスルー感染”とは?

2度のワクチン接種を終えて、免疫を獲得したあとに新型コロナウイルスに感染することを“ブレークスルー感染”といいます。日本語では「突破感染」または「ぶちぬき感染」。れっきとした医学用語で、免疫という防御をぶちぬいて突破して感染することから、このように言われています。

視聴者のみなさまからも、「なぜ、ワクチン接種後に感染するの?」「対策はどうすれば良いの?」といった質問を多く頂いています。

そこで、ワクチンの専門家で、川崎医科大学教授の中野貴司さんとともに、メカニズムや対策について詳しくお伝えしました。

経験した方は……?

今回、実際に“ブレークスルー感染”を経験した方のお話を伺うことができました。東京・三鷹市の前市長としても知られる清原慶子さんです。

東京・三鷹市の前市長としても知られる、清原慶子さん

清原さんは、7月に2度のワクチン接種を終えていました。しかし、2度目の接種から40日後、同居している家族の1人が発熱。清原さん自身には自覚症状がありませんでしたが、濃厚接触者となったためPCR検査を受けることになりました。

PCR検査の結果は、「陽性」。 清原さんは、ワクチンの接種後も、こまめな手指の消毒やマスクの着用を心がけ、人と会うことはもちろん、外出さえも控え続けていました。自宅にいるときも、できる限りの対策をしていたため、まさか自分が感染するとは思っていなかったといいます。

清原さん「ほとんど自覚症状はありませんでした。強いて言えば、花粉症のときのように、のどが若干いがらっぽいことがあったくらいで、とても医療機関にかかるようなものではなかったと思います。重症化せずに、ほぼ無症状で済んだのはワクチンを接種したおかげだと、改めてワクチンの効果も実感しました」

症状が軽いからこそ 対策が難しい

ただ、清原さんは、ほぼ無症状で済んでほっとした反面、“ある不安”も感じたといいます。

清原さん「ひょっとしたら気付かないうちに、家族や他の人にうつしていたかもしれないという不安感と責任感で胸がいっぱいになりました」 

感染症対策の専門家で順天堂大学大学院教授の堀賢さんは、“ブレークスルー感染“は症状が軽いからこそ対策が難しいと指摘します。

感染症対策が専門の順天堂大学大学院教授、堀賢さん

堀さん「これまで私が見てきた“ブレークスルー感染”の多くに共通する特徴は、症状が非常に軽いことです。せいぜい、気付かない程度の微熱があるくらいのケースが多いと思います。自分では症状に気付くのが難しいからこそ、市中では、深く静かに“ブレークスルー感染”が広がっている恐れもあるのです」

改めて確認 ワクチンの効果とは?

一般に、ワクチンに期待される効果には、次の3つがあります。

  • 感染予防効果(ウイルスの感染そのものを防ぐ効果)
  • 発症予防効果(たとえ感染したとしても症状が出るのを防ぐ効果)
  • 重症化予防効果(人工呼吸器が必要になるような重症になるのを防ぐ効果)

ワクチンに最も期待される効果は、このうち「重症化予防効果」とされています。“ブレークスルー感染”の多くが、極めて軽い症状で済んでいるということは、この「重症化予防」の効果が発揮されている証でもあります。

実は、ファイザーとモデルナのmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンについては、高い感染予防効果も期待できるというデータが世界各国から報告されていました。しかし、接種完了から時間がたつにつれ、その感染予防効果はしだいに低くなっていくことが最近の研究でわかってきたのです。

なぜ “ブレークスルー感染”が起きる?

カギを握るのは、私たちのからだの中にある免疫細胞です。ワクチンを接種すると、免疫細胞は「ウイルスが体内に入ってきた!」と勘違いして、「抗体」というウイルスなどの病原体にくっついて封じ込める特殊な物質を作ります。すると、本物のウイルスが攻めてきても抗体の働きで感染を防ぐことができます。

ワクチンを打つと免疫細胞が抗体を作り ウイルスを無害化する

しかし、敵となるウイルスと戦う機会が無いと、時間とともに抗体の量はしだいに減っていきます。すると、たくさんのウイルスが攻めてきた場合には、抗体で無力化しきれなくなり、“ブレークスルー感染”が起きる可能性があるのです。

まだ、査読という専門家の検証を経ていませんが、ファイザーのワクチン接種後の抗体の量の変化を調べたイスラエルの研究によると、「抗体の量は毎月最大40%ずつ減少する」ともいわれます。

ワクチンの専門家・川崎医科大学教授の中野貴司さん

ワクチンの専門家・中野さん「接種完了から時間がたつほど、“ブレークスルー感染”のリスクは高まっていくと考えられます。また、2回目の接種から2週間後、抗体の量がピークにあるときでも、感染した人のせきやくしゃみを浴びるような、大量のウイルスにさらされたときにも“ブレークスルー感染”が起きるリスクがあります。デルタ株は感染力が従来株よりも強いため、“ブレークスルー感染”が起こりやすいかもしれません」

重症化予防効果は 時間がたっても期待できる!

とはいえ、たとえ接種完了から時間がたって抗体の量が減って感染自体は防げなかったとしても、重症化予防効果は十分期待できるといいます。

アメリカ・CDC(疾病対策センター)の報告によると、ワクチンを2回接種した人は、一度も接種していない人に比べて、入院リスクが30分の1にまで低下したそうです。いったい、なぜなのか?

実は、ワクチンを2回接種すると、免疫細胞は新型コロナウイルスの特徴をしっかりと“記憶”し、「こいつは危ないぞ!」と臨戦態勢でスタンバイします。すると、新型コロナウイルスが体内に侵入してきたことを察知したら、すぐに抗体をたくさん作ります。さらに、感染した細胞を見つけてウイルスごと破壊して、私たちの体を守ってくれます。

それでも、免疫細胞がウイルスと戦い始めるまでにはタイムラグがあるため、感染自体は防げなかったり、症状がある程度出てしまうこともありえます。ただ、免疫細胞がウイルスとしっかり戦ってくれたら、重症化は防げる可能性が高いのです。

接種完了後の感染対策 ポイントは「鼻」か?

では、これから私たちはどうすれば良いのでしょうか?ワクチン接種完了後も感染対策は続ける必要があると呼びかけられていますが、鼻をきちんと守ることがひとつのポイントといえそうです。

中野さん「これまでの研究によると、特に、鼻などの粘膜はワクチンを打っても抗体では十分に守られていないことがわかっています」

ワクチンの抗体で十分守られていないとすると、鼻は特に重点的にケアした方がよいと言えそうです。

また、いずれもまだ専門家の検証を十分に受けていない研究ですが、“ブレークスルー感染”をした人の鼻の中のウイルス量は、ワクチンを全く接種していない人とほとんど変わらなかったというデータも海外から報告されています。もしかすると、鼻水などを介して、ほかの人に感染を広げてしまうことがあるかもしれません。

まだ 感染対策の継続を……

日本でも、和歌山県などで、“ブレークスルー感染”をした人からほかの人に感染が広がった事例が報告されています。もちろん、ワクチンを接種していないよりも、接種を完了している方が明確にリスクは下がりますが、たとえ接種しても感染を完全に防ぐことはできません。また、知らぬ間にほかの人にうつしてしまう可能性もあります。

鈴木奈穂子アナウンサー「自粛が続いて、離れて暮らす家族と長く会えていないという方も多いと思います。家族全員が接種している場合の帰省や、接種した人どうしの会食については、どう考えればよいでしょうか?」

ワクチンの専門家・中野さん「もちろん、ワクチン接種を完了していれば、これまでよりリスクは低くなると思います。ですが、まだ接種をされていない方が多くいらっしゃいますし、何より、全国で医療がひっ迫していて感染を少しでも減らすことが大切な状況です。接種を済ませても、もうしばらくの辛抱をお願いします」

視聴者のみなさまからの質問

番組には、質問もたくさんお寄せ頂きました。

Q「ワクチンを接種していても感染して重症化した方や亡くなられた方がいます。“ブレークスルー感染”でも、重症化するケースにはどんなものがありますか?」

ワクチンの専門家・中野さん「糖尿病など、新型コロナウイルスに感染したときに重症化しやすい持病がある方に関しては、ワクチン接種を完了したとしても重症化リスクは依然としてあるのが現実です。もちろん、接種したほうがそのリスクは下がりますが、決してゼロにはならないので、こうした持病のある方については、特に感染対策をしっかりと行って頂くのがよいと思います」

Q「ことしは新型コロナワクチンを打ったし、去年流行しなかったのでインフルエンザワクチンを打たなくてもよいと思っていますが、どうでしょうか?」

ワクチンの専門家・中野さん「私は、インフルエンザワクチンも接種することをおすすめします。インフルエンザも重症化する危険性があるからです。去年インフルエンザが流行しなかったからといって、ことしも流行しないとは限りませんので注意してください。ただし、新型コロナワクチンの接種とは2週間の間隔をあけることになっています」