USスチール買収阻止したバイデン氏 「苦しい説明」の裏事情

バイデン米大統領が日本製鉄によるUSスチール買収を阻止するのは「国家安全保障にリスクをもたらす」と判断したためだ。だが、同盟関係にある日本企業の買収にどう問題があるのかは不明で、根拠の乏しい苦しい説明となった。支持母体の全米鉄鋼労働組合(USW)の意向をくんだ「政治的事情」が実態とみられ

バイデン米大統領=2024年1月23日、秋山信一撮影
バイデン米大統領=2024年1月23日、秋山信一撮影

 バイデン米大統領が日本製鉄によるUSスチール買収を阻止するのは「国家安全保障にリスクをもたらす」と判断したためだ。だが、同盟関係にある日本企業の買収にどう問題があるのかは不明で、根拠の乏しい苦しい説明となった。支持母体の全米鉄鋼労働組合(USW)の意向をくんだ「政治的事情」が実態とみられ、日本政府は「理解しがたい」と反発。今後の日米ビジネスに悪影響を及ぼす可能性がある。

 「米国の国家安全保障を守るため、大統領として発動できるあらゆる権限を活用する。国の安全や強靱(きょうじん)なサプライチェーンを守るため、私はためらうことなく行動する」。バイデン氏は3日の声明で、買収阻止の意義を強調した。

 鉄鋼業は国家安全保障上、重要な産業であり、外国企業による買収に対米外国投資委員会(CFIUS)が慎重な審査をするのは自然な流れだ。

 ただ、USスチール買収の相手国は同盟を結ぶ日本。2024年4月に岸田文雄前首相がバイデン氏と会談した際の共同声明では「日米同盟は前例のない高みに到達した」と明記しており、バイデン氏の説明には強引さが否めない。

 日鉄はバイデン氏の最終判断を目前にした12月下旬、買収許可を得るための最終手段としてUSスチールの生産能力の削減に関し米政府に「拒否権」を付与すると提案。米国家安全保障への配慮を徹底し、経営の重荷になるのもいとわない異例の対応だった。

 それでもバイデン氏が買収を認めなかったのは、国家安全保障とは別の理由があるためだ。