財務省「潜在的国民負担率、62.9%に達しちゃった」

「実質的な国民負担」の尺度

 岸田文雄首相が耳慣れない用語を持ち出した。「国民負担率」である。

 所得減税や給付金支給を打ち出す一方で、「異次元の少子化対策」では社会保険料に上乗せして徴収するとしており、矛盾するのではないかと批判を浴びている。それに対して、岸田首相は「実質的な国民負担の増加にならないよう」にするので、「今回の所得税減税と矛盾するものではありません」と国会で繰り返し答弁している。その「実質的な国民負担」の尺度として持ち出したのが「国民負担率」なのだ。

 国民負担率は、税金と社会保険料の合計を、国民所得で割って算出する。毎年2月に財務省が数値を公表している。かつては国民負担率の上限を示すことで財政の効率性を掲げる内閣があった。例えば小泉純一郎内閣がまとめた2004年の「骨太の方針」では、「政府は、簡素で効率的であらねばならない」とした上で、「例えば潜在的国民負担率で見て、その目途を50%程度としつつ、政府の規模の上昇を抑制する」とある。

 元日本経済新聞論説委員の内田茂男氏によると、こうした議論は橋本龍太郎内閣当時の財務省の財政審議会からあった。その理由は「国民負担率が一定水準を超えると経済成長を妨げると考えたから」だという。ちなみに「潜在的」というのは財政赤字の将来世代の負担と考えた場合の国民負担率だ。

 ところが、それ以降、政府の方針からは「国民負担率」の尺度は消えている。財政支出を拡大させ、国債発行が激増する中で、国民負担率が急上昇したからだ。最新の実績値が公表されている2021年度まで6年連続で上昇が続き、2021年度の国民負担率は48.1%に達している。2000年度の国民負担率は35.6%だったので、この間に何と12.5ポイントも負担率が増えた。国民負担率が5割に近付いたことで「五公五民」と言われた江戸時代の厳しい年貢負担率と変わらないと批判する声も大きくなった。

 ちなみに、財務省が示している「潜在的」国民負担率は、かつて小泉内閣が上限とした50%をはるかに上回り、何と62.9%に達している。政府が口をつぐむわけである。【Yahoo!】