ホンダが「エンジンを捨てる日」5カ月前に感じた異変

2040年までに世界で新車販売をすべてEV(電気自動車)、FCV(燃料電池車)にする――。4月に就任したばかりのホンダの三部敏宏社長が公表した「脱ガソリン」方針は大きなサプライズだった。ハイブリッド(HV)を主力とするトヨタ自動車を筆頭に、日本メーカーはこれまで「脱ガソリン」に慎重で、これに呼応して日本政府もHVの新車販売を長く容認する方針だからだ。これを飛び越えるホンダの跳躍。今思い返すと5カ月前、ホンダが「エンジンを捨てる日」の予兆があったように思う。【毎日新聞経済部・松岡大地】

脱ガソリンに慎重…トヨタの「正論」

 ホンダの跳躍の大きさを理解するために、まず「脱ガソリン」を巡る国内の情勢を振り返っておきたい。

 地球温暖化対策を強化する世界的な要請を受け、政府は昨年10月、50年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロとするカーボンニュートラルを目指すと表明した。自動車は国内排出量の15%程度を占める。実質ゼロの具体策として、政府は「35年までに新車販売を電動車のみとする」との方針を打ち出した。

 電動車には、主に①電気モーターを回して走るEV②水素から電気をつくってモーターで走行するFCV③エンジンとモーターの二つの動力で動くHV――の3種類がある。このうちHVは、従来車に比べ燃費に優れるものの、燃料はあくまでガソリンだ。欧米や中国は、環境技術で日本勢に後れを取ってきたこともあり、技術的な難易度が高くないEVへの移行に急速に動いている。

 この流れに、日本も乗るのかどうか。拙速なEV移行にくぎを刺しているのは、日本自動車工業会(自工会)の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)だ。

 1997年に世界初の量産HV「プリウス」を発売するなど市場を席巻してきたトヨタ。豊田社長は、政府に電力の「脱炭素化」を繰り返し求めてきた。