
ある朝のワイドショーで、浅草の老舗定食屋が紹介された。店内には、浅草で修行を積んだ芸人たちのサイン色紙がずらりと飾られ、レポーターは「すごい方たちが来ているんですね」と興味津々。その中でふと目を引いたのが、壁の中央、ひときわ目立つ場所にぽっかりと空いた色紙一枚分のスペース。
不思議に思ったレポーターが店主に理由を尋ねると、店主は少し照れくさそうにこう答えた。「ここはね、いつか“たけちゃん”のサインを飾りたくて、ずっと空けてあるんだよ」。たけちゃん――もちろん、ビートたけしのことだ。
それから数時間後、生放送が終わり、店がいつも通り営業を始めた昼過ぎのこと。突然、入口のドアが「ガラッ」と開いた。そして、まさかの人物がふらりと姿を現す。なんとそこに立っていたのは――ビートたけし本人だった。
あまりの出来事に言葉を失う店主に、たけしはニヤリと笑って一言。「どこにサイン書けばいいの?」
たけし流の粋な“答え”に、店主はもちろん、番組を観ていた視聴者も感動の声をあげたという。テレビの向こうで語られた小さな願いに、すぐに応えてみせたその姿――まさに“浅草の男”の優しさと心意気が光る瞬間だった。

