「志村さん、ご迷惑をおかけしました……。お金は必ず返します。」

頭を下げるたけしに、志村は静かに微笑みながら言った。

「俺は口下手だからうまく言えないけど、今回のことは気にしないでいい。勝手にやったことだからな。それよりも——今まで通り、お客さんをどっちが笑わせるか、ライバルでいてくれよ。」

それは、志村けんが見せた本物の優しさだった。

日本のお笑い界に燦然と輝くビートたけしと志村けん。ライバルとして競い合いながらも、舞台裏では誰よりも深い絆で結ばれていた。1986年、たけしが「フライデー襲撃事件」で活動停止となり、弟子たちと共に苦境に立たされたとき、志村は何も言わずに支え続けた。たけしの家族や弟子たちが生活に困らないよう、静かに援助し続けたのだ。

しかし、そのことを決して表に出すことはなかった。

「ありがとう」——そう伝えたかったのに、言葉にできなかった。最後の共演でも、どこか照れくさく、本心を語ることができなかった。

そして、2020年3月——志村けんは突然この世を去った。

たけしは静かに呟いた。

「もっと仲良くしておけばよかったよ。」

けれど、もし今もどこかで志村が見ているなら、きっとこう言うだろう。

「バカ言えよ。俺たちはずっとライバルだったじゃねえか。」