「赤塚先生は、毎晩、編集者たちを引き連れ、飲み歩いては、新宿の『アイラ』というバーでタモリと合流する。
【恩返し】
「赤塚先生は、毎晩、編集者たちを引き連れ、
飲み歩いては、新宿の『アイラ』という
バーでタモリと合流する。
裸のタモリがイグアナの真似で出てきたり、
新しい遊びを考えるのが日課でした」
そんなある晩、赤塚がタモリに絡み始めた。
「お前、売れ出したと思っていい気になるなよ」
タモリも色をなし、
「そんな言い方ないだろ、
売れない漫画家に言われたくないよ」
とやり返す。
周りが必死に止めるが、
手にした水割りをぶっかけ、
ついには取っ組み合いに。
タモリを羽交い絞めにして
鼻の穴に落花生を詰め込む赤塚。
すると今度はタモリが
グリーンアスパラにマヨネーズをつけて
赤塚の鼻に突っ込む……。
「ようやく我々も『あれ?おかしいな』と気づく。
要は、2人で綿密に仕組んだギャグだったわけです。
先生の持論は
『バカなことは本気でやらないとダメ』。
遊びの時に気を抜くと、
『ふざけるな!真面目にやれよ』と叱られる(笑)」
上京してまもないタモリさんに、
赤塚さんは自分が住んでいた
目白の高級マンションを明け渡し、
自分は木造2階建ての仕事場で
寝泊りしていたといいます。
その理由はというと…。
「タモリは今まで会ったことのない、
ものすごい才能だ。
ああいう都会的でしゃれた
ギャグをやる奴は、贅沢させないと。
貧しい下積みなんかさせちゃダメだ」
その10年後。
仕事場を訪ねた担当者に、
赤塚さんは1通の通帳を見せました。
『タモリがさあ、自分の会社の
顧問になってくれって言うんだよ』
そこには毎月30万円ほどの
決まった額が振り込まれていました。
当時、先生は連載がひとつもなくなって、
不遇の時期だったんです。
またタモリは
『先生、あのベンツ乗らないでしょ。
1千万円で譲ってよ』
『キャンピングカー、500万で譲って』
と言っては、代金を払ったといいます。
先生のプライドを傷つけない気遣いなんです」
むろん赤塚もその思いを察していた。
『タモリの会社なんてホントは
あるのかどうかもわからないしさ、
ああやって俺のこと助けてくれてるんだろうな』
と言っていました。
いい話だなと思って、
通帳をよくみると、
1銭も使っていない。
『そりゃそうだよ。芸人なんて2年で飽きられるだろ。
そうなったらこの金で俺がタモリを喰わせてやるんだ』と。
赤塚先生が一枚上手だった」