
アサヒのシステム障害、混乱拡大「週明けにもスーパードライが消える」…共同配送の同業他社にも波及
アサヒグループホールディングス(GHD)のシステム障害で、社内外の混乱がさらに拡大している。受注・出荷業務の停止に伴い、取引先の飲食店や小売店ではビールなどの欠品が出始め、アサヒの業績に響きかねない状況だ。業務効率化に向けて社内システムの統合を急いできたことが裏目に出た格好といえる。(水野友晴、石川泰平) 【表】各方面に広がる…アサヒのシステム障害による主な影響
他社銘柄で代替

「ブルヴァールトーキョー」で提供しているアサヒスーパードライ。来週には品切れになる可能性もあるという(3日、東京都中央区で)=石川泰平撮影
障害発生から5日目となる今月3日、東京・日本橋のビアバー「ブルヴァールトーキョー」は、サッポロビールの黒ラベルなど他社銘柄での代替を検討し始めた。2019年の開業時から取り扱うビールはほぼ「アサヒ一筋」だったが、店舗売上高の15%を占める主力の「アサヒスーパードライ」の在庫が来週にも尽きる見通しとなった。運営会社の代表取締役、佐藤裕介さん(46)は「この状況が続けば商売にならず、売り上げにも影響しかねない」と肩を落とす。
影響は同業他社にも波及し、キリンビール、サッポロも一部商品に配送の遅れが出ているという。都内の業務用酒卸売店「佐々木酒店」によると、アサヒを含めたこの3社は都内などで工場や倉庫から問屋に運ぶ際、同じトラックに載せる共同配送を行っており、アサヒの出荷遅延が影響している模様だ。佐々木実社長(70)は「このままでは週明けにもスーパードライの生ビールが消える店が出る」と話す。
セブン―イレブンやファミリーマートは、アサヒと共同開発するプライベートブランド(PB)飲料の出荷が止まり、一部店舗は欠品や品薄を周知する貼り紙を掲示し始めた。
サイバー攻撃
アサヒはサイバー攻撃を受けた9月29日午前7時頃以降、グループ内で使用するシステムが起動しないなどの不具合が生じた。これによりグループ各社の商品の受注や出荷に加え、コールセンターの顧客対応や、社外からのメール受信もできない状況が続いている。
今月1日、飲食店やスーパーからの注文を電話などで受け付ける緊急対応を始め、3日からビールなどを順次納品しているが、正常化にはほど遠い状況だ。システム障害による直接的な影響はないという国内の30工場も、受注や出荷の混乱に伴って多くは生産の一時停止に追い込まれている。
アサヒは、23年に打ち出したDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略の中で、事業ごとに分かれていたシステムを機能ごとに統合する方針を掲げた。
今回のサイバー攻撃に伴う影響拡大や長期化との直接的な因果関係は、現時点でははっきりしていない。ただ、サイバー攻撃に詳しい神戸大の森井昌克名誉教授は「これだけ大規模な障害が発生しているのは、統合基幹業務システム(ERP)を導入しているからだと考えられる」と指摘する。
統合型システムの導入で、発注や物流、人事や会計など別々のシステムを統合することで業務効率化やコスト削減を図れる。反面、ひとたび障害が起きると、システムが巨大で複雑な分、影響が社内外に広がり、早期の復旧作業と正常化が困難になる弱点がある。
復旧困難

企業がシステム障害によって中長期的に影響を受けるケースは相次ぐ。江崎グリコは昨年4月、基幹システムに障害が発生した影響で商品の出荷が停止し、全面的な正常化に約7か月を要した。昨年6月にサイバー攻撃を受けた出版大手「KADOKAWA」は、動画配信サービス「ニコニコ動画」が約2か月間停止した。
ビール業界は長年、サントリーを含めた大手4社が激しいシェア(市場占有率)争いを繰り広げてきた。飲食店の取り扱い銘柄や小売店の陳列スペースに置いてもらっていた自社商品をいったん他社に譲れば、取り戻すのは簡単ではない。アサヒが早期に出荷停止や欠品を解消できなければ、中長期的に売上高や業績面で影響を受け続ける可能性がある。